大学を卒業する前に遠出をしましょうと話していた。はじめ検討していた隣県の美術館には、当時の私の体力では辿り着くことが難しかった。それで、隅田川へ出掛けることにした。朝6時起床、8時半集合。それぞれの線路の交差する駅の喫茶店でトーストを食べた。店を出てからしばらく歩いて、10時には隅田川に着いた。朝はいいね、やっぱり朝だねと頻りに言い合った。そのくらい良かった。普段は来た道を戻ることをしないのだけれど、この日はぴったり同じ道を往復した。自分達だけが時間の流れを逆行しているようだった。それを話すと「モモにもそういうシーンがある」と教えてくれた。彼はエンデをよく読んだ人の雰囲気をしている。楽しかった。沢山写真を撮った。浅草寺でおみくじを引いた。私が大吉で、向こうが凶だった。悔しそうにして、それから結んでいた。丼が欲しいんだと言われて、合羽橋まで出向いた。全部の店を通ったけれど、結局一枚の器も買わなかった。その後また浅草を通って、隅田川へ戻った。道中知らない喫茶店に入った。向かいに座る友人がカレーを頬張るのを、煙草を吸いながら見ていた。
この日、いつ何処でこの人と別れたのか、どうしても思い出すことができない。私はもう煙草をやらない。この友人が変わらず丼を探しているのかも知らない。
いつの間にか一人になっていた帰りに夕暮れの公園を歩きながら、一日のすべての光を浴びたのだと気付く、その瞬間までを何度も再生する。