# 1
開いた窓の、内と外との暗さが等値になると、その境界がぼやけて見える。
レースカーテン越しに届く電飾看板や信号機の光。車のエンジン音・青を待つ人の話し声・通り過ぎる誰かのくしゃみ。自室が拡張されたような、部屋と街とが混淆しているような心地の良さ。
きっと鼻擤むひとや歩行者の彼らは、交差点の角の一室と"今・ここ"が融けあっているなど考えない。壁に囲まれた淋しさを宥めるための思惑。
独り善がりを積みあげる隙間に羽虫の侵入を許してしまって、どうか出て行って下さい と平伏す気持でカーテンを開ける。布越しに透けていた時より、幾ばくか眩しくて煩い。
# 2
寝ても覚めても風邪を引き摺っている気がして、いつ薬を飲むべきか分からない。どこから風邪引きで、どこまでが平常の自分なのか、線を引くことができない。もたついていると拗らせて熱を出す。体温計に平熱でないことを証明されて、ようやく安堵しながら薬箱を取り出せる。
# 3
水曜の夜、カルトとよばれる教団の教祖から繰り返し質問される夢を見た。
「幼少期に死を願った相手は何人ですか?」「あなたが無条件に畏怖するものはなんですか?」ひとつ回答するたび、その顔が美しくなっていくのが恐ろしかった。教祖という生き物は、ひとを取り込むことで成育するらしい。私の外殻が破られ、教祖の養分として消化されるのを拒みたくて、以降はすべて出鱈目を返した。
校庭に引かれた石灰の白い線。触れてぶつかる、それぞれの皮膚。壁。カーテン。嘘や虚飾の織り込まれた会話。教祖への本当の回答は、自分という輪郭を失って、ひとりで存在できなくなることだった。