新しい部屋

通販で頼んだものが大 中 小の大きさで届いて、一瞬どの荷物から手に取るか悩んだ。 日々の中で選択する機会が減っている。私は選択を迷うことをよく覚えている。そして、小を選んだ。 夜中、何に阻まれることもなくたどり着く台所。 蛇口をひねれば出てくる水といつも使うマグカップ持ち手の曲線から思考を巡らせる事はない。

眠れない。

絡まった結び目のあるイヤホンで音楽を聴きながら、二曲と一曲の途中くらいでいつもの24hスーパーにたどり着く。 スーパーの自動扉が開くとワという音と同時に人が沢山いることがわかる。 私が好きな変な色の野菜コーナーに山盛りの食品がつまれた誰かのカートが置いてあった。 外に出ると栓を抜いたように体力が底をついて昏々と眠ってしまう。 私の体がもっている力はどこに行ってしまったんだろう。足の裏に吸水口がついてくるくると楕円を描いて力が落ちていく。 「家にいるから眠れないんだよ」と誰かから言われたので、最近はベランダで過ごしている。 尻の感覚がセメントの冷たく硬いところを全て拾い上げる。 座る時間を出来るだけ短くしようと顔にかける様に茶を飲んで、のどに叩きつけるように菓子を投げる。 外と中のバランスがどうもおかしいのではないだろうか。

眠る。

外の出方を忘れてこの時は裏起毛のトレーナーを着ていた。世は麗らかな気候だった。 味が沢山あるものを買っている人をみただけで眩暈がする。なのでもやしを三袋買った。 野菜が高い。 カーテンが揺れる速度で瞼が閉じるのを今日も願っている。

眠れない。

南アメリカ在住の青年の生活リズムに合わせて暮らしている。 彼の国の時間のお昼に今日は寝坊しちゃった君はどう?と連絡がある。 家電のモータ音しかしない深夜の真っ暗な部屋で私は「Good mornig」と見当はずれな返事をした。 朝はもう少し先、あとすこし、 必ず体調のことを聞いてくれるが、「Nice」と答えている。どこかが痛むとかの説明は難しい。 本当は目が痛くて涙が止まらないまま過ごしている。 何時間もパソコンの画面を楽しんで観ることができていたのは、次の声が反響する部屋で弁当を広げて だらしなく食べることができたからだ。

泣き暮らしているのか。もやしを食べながら。
寝たら朝がきて、起きていると夜が来るのか。
おやすみ。

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