雪平鍋に蝋がたまっているから、今日の味噌汁はインスタントになった。
椀に味噌のペーストの袋の端を、強く指で挟んで押し出す。
植物の水やりにも使っているケトルに湯を沸かし、注ぐ。
あまりかき混ぜるとぬるくなると思い、全体が茶色になったところでやめた。
しかしワカメのドレープの間に塩辛いところが隠れていて、大抵むせる。
酷い猫舌なのだからしっかり混ぜればいいのだ。
私は見た目が完成形になれば何もかもやめてしまうところがあるから、これもきっとまた同じように繰り返す。
蓋がかぶさっただけのペットボトル、鍵のかけていない扉
さて、と蝋の処理をしようと立ち上がる。
熱すれば溶け冷えれば固まるのを最初は面白く見ていたものの次第に苛立ってきて、途方にくれる。
換気扇をかけて脳から出ている煙のイメージを払拭した。
そういえば階段から落とすとUの形をとって降りていくばねのおもちゃがあった。
私はそれをすぐ踏んでひしゃげさせてしまう傲慢な子供だった。
おもちゃの名前を調べてみれば永久的に駆動するユニークマシンと説明がある。
このマシーンが永久に動き続けるには永久に続く階段が必要だ。
用を作り外に出た。
久々に乗った電車では一つ飛ばしで着席するルールが発生していた。
乗車してみればすぐわかる。説明書は必要なかった。
勝手知ったる風でそれぞれ散り散りになったが、私は飛ばせる席がなくなってしまったので暫く立っていた。
扉が開いた時ザワザワとした音が特に大きい駅でたくさんの人が立ち上がったので、座ることができた。
最後に行き着いた渋谷の道路ででかい鼠が死んでいた。
そこらにいる人間より丸く皮膚に肉が満ちている。血は夜の道路の色の上でもしっかり赤く発色していた。
友人と天井に生けた草がついた喫茶店でコーヒーを飲んだ。本当だ。
会話に隙間ができるとお互いマスクをつけなおした。右から左に順に耳にゴムをかける。それか両端を持っていっせいのせに口を覆う。私はこのどちらかだと思う。
外に出たとき鼠はいなくなっていた。道路が広い範囲で濡れている。
また来た道を戻るために電車に乗る。午前中の一つ飛ばしの法は22時は適用外らしかった。
有料駐輪場の8時間110円を超過してしまっていたので、
220円払った。
帰路の途中、無料駐輪場の横を通り「えー」と声に出した。
住み始めて2週間も満たない私の家までの知らない帰路は、帰り道というよりもどこかへ行ってしまうような感覚がした。