私が死体のようになっていたら浴室に押込めて欲しいこと、ここに長く滞在する人には伝えておく。
生活の虚しさや孤独に打ち拉がれて、ときおり身動きが取れない。過去形ばかりの文章を読んだとか、血管が澱んだ青に見えたとか、瑣末なことで硬直する。
ベッドで数時間を徒消していると、体内の水分が増えていく感じがする。本来 涙などの形をとって放出されるべきものが、どこかで詰まっているような。皮膚にぶつかる空気は乾いているから、私だけが極端に水分を蓄えているような傾きを感じて、尚更に淋しさが肥っていく。
アパートメントの狭い浴室で蛇口を捻ると、すぐに水の気配が立ち籠める。私を強張らせていた傾きが有耶無耶になる。
それは、昏い感情が取り除かれるというよりも、水平を取り戻すという方が近い。
RPGの教会みたいだと思う。入ることさえ出来れば、いかなる状態異常からも抜け出せる地点。鏡の中の明るくなった血管に、私の水脈を確かめる。