夢の中で眠れないと苦しんでいる、どういうことなんだ。メイクを落とさずに少しだけ眠ってしまったらニキビが一気に4つできた。夢と現実の区別がつかなくなってきたかもしれない。夢の中で友人と話したことが現実で話したことなのかどうかわからなくなってる。メルカリで300円で買ったTシャツから時間の経ったタバコの臭さ。一度洗ったら煙の上辺のにおいだけが取れて、より気色の悪いにおいになってしまった。思い出したことを人に話すときと、好きなことについて人に話すときの心の動きって似てるかもしれないと思った。
帰り道にこの町で一番安い八百屋に寄って野菜をカゴに詰め込んだ。ミネストローネを煮込んでいるとセロリの、あの独特なにおいがしてくる。一人暮らしをしはじめて料理をするまで、セロリのにおいは自分にとってアトピーのにおいだった。小学生になるよりもっと前、肌がずっと痒く、特に男性器の辺りはいつも掻きむしっていた。一ヶ月に一度くらいの頻度で、アトピーを専門にしている?小さな病院まで薬をもらいにいくために車で遠くまで連れてこられていた。その建物は病院と聞いてすぐに想像するような白い壁や音の響く廊下のある空間はなくて、そこまで広くない待合室のあちこちに所狭しとプランターが置かれていて、薄暗い。ガラスケースには症状のある子供に食べさせると良いとされている食品が並べられていて、その一つとしてセロリ入りの緑色のパンが売っていた。なので院内にはいつもセロリのにおいがずっと薄く漂っていて(そのときはセロリのにおいだとは知らなかったけれど)、肌の調子がよくなるまでの長い間、セロリのことを魔女が煮込むスープに入れるような、なにか呪術的な効用を持つ素材という印象を持っていた。あのくらい強いにおいのする薬草だから、自分の肌もそのくらいの強い成分がないと治らない病気なんだと感じていた。アトピーだったことも、その病院のこともすっかり忘れていたけれどセロリのにおいで唐突に思い出した。